対談 紙について話そう。 「表現と素材」-1

かねてより親交があるというふたり。
グラフィックデザイナーと漫画家が話し合う今回のテーマは「表現と素材」です。
※PAPER'Sをご覧になった方は続きからどうぞ。
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—おふたりは日頃どんな風に紙をお使いですか?
菊地:僕は普段は印刷用に紙を使いますね。ニュートラルな白味の、非塗工の紙に特色印刷をすることが多いです。アラベールとかもよく使うけど、今一番使っているのはGAスピリットですかね。それから、この間久々にヴァンヌーボを使ったら、意外と良かったです。印刷適性に優れた、すごくメジャーな印刷用紙ですけど、インキをのせたときの光沢が苦手で使っていなかったんです。でもこれはこれで良いかもしれないなと思いました。高野さんは漫画の場合だと、造本のときに紙選びに参加されたりはしないんですか?
高野:します、そう言えば。
菊地:そう言えばって(笑)。
高野:あんまり詳しく考えたことはないんですよ。原稿用紙も水色の罫の入っている、袋入りのです。確か2種類あってそれの薄いほう。トレスでペン入れをするので、光が透けるほうがいいんです。
紙とペンがあれば、アイディアを勢いそのままに定着できる。
高野:漫画の画材にも流行がありましてね。原稿用紙にマーメイドを使うのが流行ったことがあるんですよ。70年代前半かしら。あのでこぼこした紙にペンではなくてロットリングで線を引くんです。あたりまえだけどギザギザ揺れますよね?あれが流行った。この時期、美大出身の漫画家さんが増えてきましてね。おおやちきさんの巻頭カラーなんか、かっこよかったもんなぁ。マーメイドにドクターマーチンの肌色がきれいでね。憧れましたもん。
菊地:おもしろいですねえ。漫画はすごく線の太さの流行がありますよね。
高野:ありますよね。大友克洋さんの頃はみんなが丸ペンになったりしたし。今はサインペンやパソコンのほうが多いかもしれない。私はずっとスプーンペンです。筆ペンも使います。菊地さんに手伝っていただいた今回の絵本は筆ペンなんです。漫画と違って色がつくなら境界線は太い方が良いと思って。
菊地:僕は未だに、手で絵を描くときは、ほぼ筆ペンですよ。僕の場合は版をつくるっていう感覚に近いですけど。サリー・スコットのポスターなんかも、全部筆ペンですよ。図の部分を筆ペンで全部描いて、それをコンピュータに取り込んでいくんです。家の絵柄だったら屋根だけを描く、という具合に、パーツごとで別々に描いていく。木版画の版みたいな感じでつくって重ねるんです。印刷は一度版をつくればインキ次第で同じ絵柄でも違う色になるから、同じ版で色違いのものを数パターンつくったりもします。下描きもせずにいきなり筆ペンで描くこともありますね。コンピュータで描くことも多いですけど、コンピュータで描くと線の勢いを感じさせるためにいろいろと細工をしなくてはならないので。
高野:なにしろ筆ペンは仕事が速いですよね。頭に浮かんだものが消えてしまわないうちに紙に描き留めたいときは筆ペンがいい。かげ、かたちだけでも紙に写せる。
今回の絵本は、筆ペンの黒だけでなく、アクリル絵の具をつけて線を引きました。初めてで楽しかったんですけど、手探りなので心配もあったんです。この本のお客様は4歳なのよね、いつものお客さんとは違うのよー、と自分に言い聞かせてましたね。かわいくない絵本ができたらまずいぞ、と。そこで、菊地さんをお尋ねしたんですよ。描き上がったのを全部持ってって「かわいくしてください」ってお願いしました。
菊地:今回の僕の立場はデザイナーというよりプリンティングディレクターに近かったんですよ。原画に再現されていた絵のカラーバランスみたいなものを、どうやって印刷に落とすかなあと考えながら、発色の具合や筆跡の出方なんかを地道につめていきました。ただこれ身も蓋もない話ですけど、読む人は原画見たことないですからね(笑)。だから印刷物がただきれいになればいいわけでもないし、原画そのままならそれが一番いいわけでもない。印刷物になったときに印象が変わらないで、内容がちゃんと伝わるっていうのが大事なので、その辺のさじ加減が大切なのかなと思いますね。
高野:そうだったんだ。今聞いて初めて知りました。いや実は私ね、完成した本見て「あれ?まんまじゃん」って思ったの。あれは、菊地さんが色々手をかけてくれたから、私には「まんま」に見えたのね。これはおみそれいたしました。


